さかな

エッセイ

 数年前、さかなクンが千歳市民文化センターにやってくるというCMを見て、私の心は激しく踊った。さかなクンを生で見られる大チャンス到来。その頃は家庭内でのトラブルで心が休まることもなく、鬱々とした毎日にうんざりしていた。さかなクンを見れば楽しい気分になれるのではなかろうかと思い、チケットを購入した。ちなみに私はさかなクンが大好きだ。魚に詳しいわけでもないし、それほど魚に興味はないけれど、さかなクンという人間がとても愛おしい。

私はそういうイベントやライブというものに行くのは、ものすごく久しぶりだった。20代の頃はフジロックだの、野外フェスだの、クラブだのに、よく行っていた。今思えば、それはそれで楽しかったけれど、テントや寝袋を背負って山の中へ行くには若さが必要だろう。もう私は大音量で音楽を聴かなくても、踊らなくても、全然構わない。これが大人の階段をのぼった状態なのかもしれない。

 さかなクンのイベント当日、私は道に迷っていた。千歳駅で降りたことがなかった上に、私は動物としてヤバいくらいの方向音痴だ。千歳駅から歩いて10分ほどと近い所に市民文化センターがあるというのに、たどり着かない。スマホのナビを見ても分からない。道行く人に場所を教えてもらい、やっとこさたどり着いた。入り口にはさかなクンが描いたと思われる鮭の絵が飾ってあった。チケットに記載されている席を見て驚愕。前から2番目のほぼ真ん中という席だったのだ。こんな至近距離でさかなクンを見られるのかとドキドキワクワクした。

 イベントが始まり、さかなクンが登場。ギョギョ!と本当に言っている。テレビで見るさかなクンより可愛らしい。さかなクンは主に鮭の話をしながら、マジックペンでじゃんじゃん魚の絵を描いている。ものすごく上手だ。それとさかなクンを見ることに集中して、鮭の話はあまり覚えていない。ただ、思ったことが、このさかなクンのイベントのチケット代が1500円という安さ。ちょっとさかなクンに失礼なのではなかろうか。さかなクンはそれで満足なのだろうか?「ギョギョ!こんな安いしぎょとはやりたくぎょざいません!」と言って地団駄を踏んだっていいだろう。さかなクンはきっと寛大なのだ。(文・ねぎ)

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