バゴーンズ

エッセイ

私が中学生の頃、洋楽とかジャンルにこだわらず、やたらと音楽に詳しい福田くんという同級生がいた。私は音楽が好きだったけれど、そんなに詳しくはなかったし、今でもあまり詳しくない。

誰がどんなバンドが好きだとかって話になると福田くんは決まって、
「お前もそれ好きなんだ。オレにしてみたら今更だけどねー」というような上から目線的な事を言うのだ。福田くんは誰がどんな音楽の話をしても奴は「あー知ってる。」と言っていた。

そんな福田くんに対して、私は何だかちょっと大人な男だなとその頃は思っていた。その頃に限られたものではあるけれど、音楽に詳しい=大人と思い込む時期だったのだ。

そういう積み重ねの結果、音楽の話をする時の仲間内では、

「福田って本当にあんなに音楽詳しいのか?」

「何でも知ってるって胡散臭いよな」

「俺らの小遣いでそんなにCD買ったり借りたり出来ないよな」

「知ったかぶりなんじゃねーの?」

「何とかあいつをギャフンと言わせるような事をしたいよな」

みんなで話し合ってみて、私が提案したのは架空のバンドを作ることだった。

それは架空のバンドすら「知ってる」と言うなら、今までのもみんな嘘だったんじゃないかと、いかにもヒマで頭腐ってるようなガキの考えた、ちょっとした戒めのつもりだったがみんな乗り気だった。

その架空のバンド名は「バゴーンズ」

随分マヌケなバンド名だ。もちろん私が考えた。

「♪ジャジャジャジャジャジャジャジャバゴーン♪」

と、マヌケな歌をみんなで歌えるようになってから、福田くんの前で打ち合わせ通りの話をした。

「最近どんな音楽好きなのー?」

「あ、オレね、最近バゴーンズ好きなんだよね」

「あーバゴーンズいいよね、最近好きだねー」

「オレあそこのさ、ジャジャジャジャジャジャジャジャバゴーンってとこすげー好き」

彼は話についていけない様子であまり話したがらなかった。で、私は言った。

「あれー?福田くんバゴーンズ聴いてないの?」と。そして彼はとてもか細い声で、

「うーん…ラジオで聞いた程度だからね…」と言った。

その場にいた私達は爆笑した。あんなに笑った事はない。

その後、福田くんと私達は付き合わなくなった。

くだらない話でした。(文・ねぎ)

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