bsh

エッセイ

 若かりし頃、私は毎日ビールを浴びるように飲んでいた。年を取ったらこんなふうに飲めなくなるのだろうと、割りと先のことを考えながら、肉体の若さに身を委ねて飲んでいた。二日酔いはあっても胃もたれはしない。20代で太田胃散のお世話になったこともなかった。

 酔い方もまた若かった。時には変なベクトルに向かって酔い、何を考えているのか自分でもわからなかったことも沢山ある。

暑い夏のある日、川辺でビールを飲んでいて、少年たちが小高い岩場から飛び込みをして遊んでいるのを眺め、気持ちよさそうだな、楽しそうだなと思っていた。思うだけなら良かった。私は何本目かわからないビールの勢いで、服を着たまま岩場からザボーンと飛び込みをした。水中で「あ、私は泳げなかったんだ」と気付くも後の祭り、ブクブクと川底へ沈んで人生の終わりを感じていた。そこで少年たちが助けてくれて、私は死なずに済んだ。人生の終わりまで感じていたのに頭はまだ酒に酔っていて、私は少年たちにお礼としてビールを差し出した。少年たちは「だめだこりゃ」みたいな顔をして去っていった。

 またある時は公園でビールを飲んで、不可解なことを真剣に考えていた。それは別所哲也の単位だった。別所哲也が一人だと1bsh(ベッショと読む)、別所哲也が10人だと10bshになる。このbshという単位を私は気に入っていた。一緒にビールを飲んでいた友人も上手いこと考えたね!と褒めてくれた。しかし、よく考えると別所哲也はこの世に一人しかいない。10bshになるわけがない。ということは結局のところ別所哲也の単位は必要がなくなる。視野を広げて「別所」という名字の人をbshで数えることにした。早速bshの単位を使いたいところだが、なかなか別所という名字の人がいない。そうやってbshの単位は風化して記憶から消えていくと思っていたところに、職場で「べっしょくん」と呼ばれている人と出会った。これはbshの出番だと密かに喜んだ。会社の飲み会でベロンベロンに酔って「べっしょくん」と呼ばれている人に、bshの単位の話をした。「べっしょくん」は笑い転げたけど、残念なことに「べっしょくん」は本当は「上別府(カミベップ)」という名字だった。みんな上別府と呼びにくいので「べっぷくん」と呼んでいて、私は単に「べっしょくん」と聞き間違えていただけだった。上別府さんは優しい人で、私宛のメールでは「1bshより」と綴っていてくれた。

 40を過ぎた私はあの頃のようにビールを飲めなくなったけれど、酔っていなくても不可解なことを考えるので、ビールがどうこうというわけでもなさそうだ。
(文・ねぎ)

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