キズパワーパッド

エッセイ

 私は物心がついた時からラーメンが好きだった。叔母が一人でラーメン屋を切り盛りしていて、かなりの頻度で、父は私に叔母の作ったラーメンを食べさせてくれた。美味しさに定評があり新聞にも載り、店はどんどん繁盛して叔母一人ではどうにもならない状態になり、初めて叔母は人を雇った。人生は本当に何があるのかわからないもので、人を雇った次の日に、叔母は突然亡くなった。もう二度と叔母のラーメンを食べられない悲しさと、鬼瓦みたいに怖い顔の叔母の笑顔が観られなくなる悲しみで、子どもながらに沢山涙が出た。そこから私の麺類への強い欲望が湧いてきたように思う。

私はラーメン屋のラーメンだけではなく、カップ麺や袋麺も好きだ。風邪で学校を休んだ時のお昼に『ヤクルトラーメン』というネーミングセンスが悪い袋麺を食べるのが恒例だった。ちなみに『ヤクルトラーメン』とは麺にクロレラが入っているため緑色で、ネーミングだけでなく見た目も悪い。でも袋ラーメンの中ではダントツに美味しかった。

『宅麺』という全国の有名なラーメンのお取り寄せができるサイトがある。1杯900~1500円くらいと若干高い。それプラス送料なので、沢山買うのがお得なのだが、冷凍なので冷凍庫に入り切らない。しかし、有名店のラーメンが自宅で味わえるのはありがたい。高いと思うけれど、有名店へ行く交通費、何時間も行列に並ぶ苦痛と疲労、そう考えると決して高くはない。麺を茹で、スープごと冷凍にしたものを湯煎で温める。付属の巨大チャーシューや、追い背脂や、ユニークなかやくが入っていたりする。チマチマとではあるが、気になるラーメンは全部食べてみた。当時私が好きだったのは、二郎系ラーメンと呼ばれる背脂まみれで、チャーシューが大きく、にんにくが腹壊すほど沢山入っていて、麺が太くて、マクドナルドを余裕で越えるジャンクなラーメンだ。というか、もはや毒なのでは?とも思ってしまう。それでも私はそれを食べ続けた。大量の背脂によって肌はツヤツヤなのだが、本当に自分の背中や腹に脂がついてしまった。

すっかりラーメンのお取り寄せが楽しくなって、宅麺だけでなく、Amazonでもラーメンのチェックをしていた。するとどうだろう、食べてみたかったカップヌードルのグリーンカレーがあった。私は昔からカップヌードルには失敗がないと思ってきたので、これも絶対に美味しいはずだ。即ポチっと購入。送料無料が何とも嬉しい。

注文してから3日くらいで届いて、私はその日の昼食をこのカップヌードルにしようとワクワクしていた。蓋を開けると本当にグリーンカレーの香り。3分待っている間に、誤って手を滑らせて、熱々の麺とスープが右足の太ももに、ぶっかかってしまったのだ。熱い、痛い、慌ててジーンズを脱ごうとしても、散らばった麺やスープでスムーズにいかない。  やっとジーンズを脱げて、右の太ももを見て精神的にえぐられた。真っ赤にただれて、白い肉が見える。ものすごく醜くグロテスクだ。そして広範囲。私はその時点で、これからの人生はミニスカートは却下になった。

それにしても、この大やけどをどうしたら、100%とは言えないけど60%くらいにはならないのだろうか?そこで私は『キズパワーパッド』の一番大きいのをあるだけと、水を弾くフィルムと包帯を買った。気休めなのはわかっているけど、試したいのが女というものだ。

太ももに沢山キズパワーパッドを貼って、その上から水を弾くフィルムを貼って、3日くらい様子を見ることにした。キズパワーパッドはフニャフニャになり、フィルムには茶色い体液がどんどん溜まっていく。そぉーっとキズパワーパッドとフィルムを取る。もちろんグロテスクな状態だ。家族の誰も見ようとしない。

体液が出るのでフィルムの交換は毎日していたが、キズパワーパッドはグデングデンになっても今回はそのまま1週間放置。そしてまた新たに貼って1週間放置。その結果が、嘘のように何の跡もない。触っても痛くない。本当によく見ないとそこに火傷の跡が残っているけれど、次は火傷跡の薬『アットノン』というものを買って、こまめに塗っていた。するとその小さな火傷の跡は見えなくなっていた。

一生ものの火傷のはずが、一旦皮膚が再生されて、きれいになって戻ってきた。ミニスカートだって履いて歩ける。こんな画期的なものなのにお値段がかなり良心的でありがたい。家族からは「バカだね」と言われただけで、労る言葉をかけてはくれなかった。それはそうだ、私だとてカップ麺こぼしてひどい火傷をしていたら、「バカだね」と言うであろう。熱狂的なラーメン好きが講じて、こんな間抜けなことになっている。ラーメンの話から絆創膏の話へ移行していく人はあまりいないかもしれない。(ねぎ)

※使用している写真は、Amazonから引用しています。

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